クリエイターを狙うフィッシングと詐欺

インフルエンサーや YouTuber は、知らない相手からの仕事の連絡を日常的に受けるため、フィッシングやマルウェアの標的になりやすい立場にあります。名前と顔が知られているため、ファンを狙う詐欺に使われることもあります。
このページでは、実際に起きた事案と手口、対策をまとめています。

事案と数値は、各項目に書いた公表の時点のものです。出典は項目ごとと、ページの最後にまとめています。

クリエイターが狙われやすい理由

クリエイターのアカウントは、攻撃する側から見て価値が高く、しかも連絡を取りやすい相手です。

  • 連絡先が公開されている: 仕事の依頼を受けるため、メールアドレスや SNS の DM を公開しています。知らない相手からの連絡を開くことが、仕事の一部になっています
  • ファイルを開くのが自然: 企画書、契約書、試用のソフトウェアなど、案件の資料としてファイルが送られてくることに慣れています
  • アカウントに価値がある: 登録者やフォロワーの多いアカウントは、売却されたり、詐欺の配信や投資の勧誘に使われたりします
  • チームでアカウントを使う: 編集者やマネージャーとパスワードを共有していると、1 人の PC が感染しただけで、チャンネル全体が乗っ取られます
  • 名前と顔が知られている: 本人になりすました広告やアカウントで、ファンがお金をだまし取られることがあります

実際に起きた事案

Google の脅威分析グループ (TAG) の報告

スポンサーの案件を装うマルウェアで、YouTube のチャンネルを乗っ取る

2019 年の後半から続く攻撃です。実在の企業を名乗って動画の広告を依頼し、ウイルス対策ソフト、VPN、写真の編集ソフト、ゲームの体験版などを装ったマルウェアを送ります。マルウェアはブラウザの Cookie を盗み、攻撃者はそれを使ってログインします。

乗っ取ったチャンネルは売却されるか、暗号資産の企業の名前に変えられ、プレゼントを装う詐欺のライブ配信に使われました。Google は、攻撃に使われた約 15,000 のアカウントを確認し、標的に送られた 160 万通のメッセージをブロックしたと報告しています。

出典: Google Threat Analysis Group

国内事案

登録者約 191 万人のチャンネルが「Tesla」に変えられ、詐欺の配信が流される

歌い手の天月-あまつき-さんのチャンネルで、登録のメールアドレス、パスワード、電話番号が変えられ、動画が非公開や削除にされました。チャンネル名は「Tesla」に変えられ、イーロン・マスク氏の映像で暗号資産への投資を促すライブ配信が流されました。

Google Japan が同じ日のうちに保護と復旧を行い、2 段階認証の利用を勧めています。侵入の経路は公表されていません。

出典: J-CAST ニュース

海外事案

スポンサーの資料に見えるファイルから、2 段階認証をすり抜けて乗っ取られる

テクノロジーの大手チャンネル Linus Tech Tips で、社員がスポンサーの提案に見えるファイルを開き、マルウェアがブラウザに保存されたパスワード、Cookie、ログインのセッションを盗みました。ログインのセッションをそのまま使われたため、パスワードと 2 段階認証は役に立ちませんでした。

3 つのチャンネルが暗号資産の詐欺の配信に使われ、のちに復旧しています。チャンネルの中の権限の分担があいまいだったことで、対応が遅れたと本人が説明しています。

出典: Dexerto

セキュリティ企業 CloudSEK の報告

ブランドとのコラボの提案に、パスワード付きの圧縮ファイル

ブランドとのコラボレーションを装うメールで、クラウドのストレージに置いたパスワード付きの圧縮ファイルを開かせ、「契約と支払いの条件」に見せかけた実行ファイルを実行させる手口です。パスワードを付けるのは、メールのウイルス対策の検査をすり抜けるためです。

出典: CloudSEK

YouTube の機能の悪用

YouTube の正規のアドレスから届く、偽の「収益化のポリシーの変更」

攻撃者が限定公開の動画をクリエイターに共有し、YouTube の正規の送信元 (no-reply@youtube.com) から通知のメールが届くようにした手口です。動画では、YouTube の CEO を AI で生成した映像が収益化のポリシーの変更を告げ、偽のログインのページに誘導しました。

Google は、限定公開の動画の共有でクリエイターに連絡することはないと案内しています。

出典: Google「YouTube Phishing」、BleepingComputer

IPA (情報処理推進機構) の注意喚起

知人からの「投票のお願い」で、Instagram が乗っ取られる

乗っ取られた知人のアカウントから、投票への協力を依頼する DM が届きます。電話番号と、SMS で届いた認証のコードを伝えると、パスワードと連絡先を変えられ、攻撃者が多要素認証まで設定してしまいます。乗っ取られたアカウントは、投資の勧誘に使われます。

IPA への不正ログインの相談は、2025 年 7 月に 144 件と過去最多になりました。

出典: IPA 安心相談窓口だより

国内事案・kouta神 さん

実況者の Minecraft のアカウントが乗っ取られ、マイクラ ID と Hypixel のランクを失う

実況者の kouta神 さん (Minecraft の名前は GOD_koutan) は、2026 年 6 月 2 日に公開した動画で、10 年以上使ってきた Minecraft のアカウントが第三者に乗っ取られたことを公表しました。動画の説明欄では、サーバーの中にいる「GOD_koutan」は乗っ取った犯罪者であり、今後は「GOD_koutan_GOD」として活動すると説明しています。

動画では、Hypixel で YouTuber に与えられる「YT ランク」と、長く使ってきた名前そのものを失ったことを説明しています。あわせてファンに、「GOD_koutan」を名乗るアカウントは偽物で、見かけたらサーバーの管理者に通報すること、以前のフレンドの登録を解除すること、そのアカウントからの DM や別のサーバーへの誘いには応じないことを呼びかけています。

出典: 本人の YouTube の動画 (2026 年 6 月 2 日)

手口の見分け方

スポンサーやブランドの案件のメール

実在の企業やエージェンシーの名前を使い、報酬の条件も具体的に書かれているため、本物と見分けるのは簡単ではありません。次の特徴があれば、開く前に疑います。

  • 資料がパスワード付きの圧縮ファイルや、クラウドのストレージのリンクで送られてくる
  • 資料を開くために、ソフトウェアのインストールや、マクロの有効化を求められる
  • ファイル名は PDF に見えるが、実際は実行ファイル (.exe、.scr、.lnk など)
  • 送信元のドメインが、企業の公式サイトのドメインと違う。フリーメールから送られてくる
  • 返事を急がせる、期限が極端に短い

案件の真偽は、メールに書かれた連絡先ではなく、企業の公式サイトに載っている窓口や、普段から取引のある担当者に確かめます。

運営を名乗る連絡

「著作権の侵害で削除される」「ガイドラインに違反した」「認証バッジを付けられる」「収益化が停止される」といった連絡は、不安や期待をあおってログインさせる典型的な手口です。各サービスは、次のように案内しています。

サービス公式の案内
YouTubeパスワードを尋ねることはない。正規のメールは @youtube.com か @google.com から届く。限定公開の動画の共有で連絡することはない
Instagramアカウントについて DM で連絡することはない。正規のメールは、アプリの設定の「Instagram からのメール」で確認できる
X添付ファイル付きのメールは送らない。メール、DM、リプライでパスワードを求めることはない

通知の内容は、メールや DM のリンクから開かず、アプリや、自分でブックマークした公式のページから確かめます。

認証のコードを求める連絡

SMS やメールで届く認証のコードは、誰にも伝えてはいけません。知人やサービスの担当者を名乗っていても、コードを求める時点で攻撃を疑います。2024 年には、携帯電話のショップで本人になりすまして SIM カードを再発行させ、電話番号を乗っ取る被害 (SIM スワップ) も国内で起きています。SMS だけに頼るログインは、避けたほうが安全です。

本人になりすました詐欺

クリエイター本人のアカウントが無事でも、名前や顔を使った詐欺で、ファンが被害に遭うことがあります。

警察庁によると、2025 年の SNS 型投資詐欺は 9,523 件、被害額は 128.80 億円でした。著名人の画像や動画を無断で使った広告が確認されており、最初の接触の約 8 割は、バナーの広告と DM です。2024 年には、なりすましの広告について、実業家の前澤友作氏が Meta を提訴しています。

なりすましを完全に防ぐことはできませんが、次の準備で、ファンが本物を見分けやすくなります。

  • 公式のアカウントと、公式サイトの一覧を公開し、それ以外のアカウントで連絡しないことを明記する
  • 投資の勧誘、プレゼントの当選の連絡、LINE への誘導はしないことを、プロフィールや公式サイトに書いておく
  • なりすましを見つけたら、各サービスの報告の窓口に通報し、ファンに注意を呼びかける
  • 公式サイトのドメインを装ったメールを防ぐため、送信ドメインの認証 (SPF、DKIM、DMARC) を設定する

出典: 警察庁、Business Insider Japan

2 段階認証だけでは防げない理由

2 段階認証やパスキーは、パスワードを盗まれたときにログインを防ぐ仕組みです。ところが、PC がマルウェアに感染すると、ログインを済ませたあとのブラウザの Cookie (ログインのセッション) が盗まれます。攻撃者はそのセッションを使い、パスワードも 2 段階認証も通らずに、ログインした状態でアカウントに入れます。

Google も、ソフトウェアだけで Cookie の持ち出しを確実に防ぐ方法はないと説明しています。Chrome では、ログインのセッションを端末に結び付けて、盗まれても使えないようにする仕組み (DBSC) を、2026 年 4 月から Windows 版で提供し始めています。

そのため、ログインの強化とあわせて、マルウェアを PC で実行させないこと、感染に早く気付くことが欠かせません。

対策

ログイン

  • Google アカウント、SNS、メールのログインを、パスキーかセキュリティキーにする。YouTube のヘルプも、2 段階認証の 2 つ目の要素にパスキーを勧めている
  • 標的になりやすい方は、Google の高度な保護機能プログラム (無料) の利用を検討する
  • SMS の認証だけに頼らない

チャンネルの権限

  • パスワードを共有せず、YouTube のチャンネルの権限で、メンバーごとに必要な役割だけを付ける
  • オーナーの権限を持つ人を絞り、チームを抜けたメンバーの権限はすぐに外す
  • 知らない端末からのログインがないか、定期的に確認する

PC とファイル

  • 案件の資料は、配信や編集、アカウントの管理に使う PC では開かない。確認用の別の環境を用意する
  • OS とブラウザを最新にし、不審な動きを検知するソフトウェア (EDR) を入れる
  • ソフトウェアは公式の配布元からだけ入れる

乗っ取られたときの対応

  1. ほかの端末から、各サービスの乗っ取りの窓口 (YouTube の「ハッキングされたチャンネル」の復旧の手続きなど) で、アカウントの回復を申請する
  2. 感染したおそれのある PC をネットワークから外し、その PC ではログインしない
  3. メールなど、乗っ取られたアカウントとつながるほかのアカウントのパスワードを変え、ログイン中のセッションをすべて終了させる
  4. 公式のほかのアカウントや公式サイトで、ファンに乗っ取りを知らせ、リンクを開かないよう呼びかける
  5. スポンサーや所属の事務所に連絡し、金銭の被害があれば警察に相談する
  6. 復旧したら、感染した PC を初期化し、侵入の経路を確かめてから使い始める

乗っ取られてから慌てないよう、復旧の手順と連絡先は、事前に決めておくことをおすすめします。

参考にした資料

アカウントとチャンネルの保護は、KEY SELECT に

パスキーへの切り替え、チャンネルの権限の整理、案件の資料を安全に開く環境、チームの PC の保護、乗っ取られたときの手順づくりまで、KEY SELECT がお引き受けできます。個人で活動されている方も、法人のチームも、ご相談いただけます。

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